とりあえずそこ置いといて

映画化も、ドラマ化もしない何でもない日常で感じたことや考えたことの寄せ集め

跡形もなく消えたとしても

私が借りている駐車場の隣の家には、立派な桜の木があった。昨日までは確かにそこにあった。でも今は跡形もなく消えている。本当に桜の木があったのかと疑いたくなるくらいきれいに消えていたから驚いた。なんだかとても寂しかった。その家はもともと空き家…

ゆく人、くる人

その日は出張で東京駅に降り立った。人、人、人。とにかく人が多い。自分の乗るべき電車に向かう人々が縦、横、斜めと様々な方向に行き交う。その流れの中で立ち止まることはできない。水の流れをせき止めてしまうことになるから。いつ来てもせわしない場所…

冷めない香り

大学時代、夫婦で営んでいる小さなお弁当屋さんに週に一度か二度通っていた。お弁当屋さんからはいつも揚げ物の香りがしていた。その香りを嗅ぐと、不思議と心がほぐれていった。 一人暮らしを始めた当初は、なるべく自炊をしようと意気込んでいた。だが元々…

霧の中へ

ある日の夜11時半頃、出張から帰ってきて駅を出ると、一面霧に覆われていた。空気はひんやりしていてゾクッとした。ただ寒いだけではない。なんだが心がざわつくような気配がした。駅から自宅まではタクシーを使った。車窓から眺める景色はいつもの見慣れた…

マンゴーかき氷×3

母と祖母と台湾料理の店に行った。 この時期限定のマンゴーかき氷を食べることが一番の目的だった。この時期を逃してしまうと次は1年後になってしまう。普段は食に対してこだわりがない私だが、あのおいしさを分かち合いたいがために店を予約した。天気は快…

煙の誘惑

スーパーの駐車場にて。 車を降りた瞬間、なんとも香ばしい匂いが鼻を襲撃し、思わず深呼吸。「なんじゃ?この香りは?どこから香ってくるのじゃ?」なんて昨日見た時代劇に影響されまくったつぶやき(もちろん声には出さずに心の中で)と共に周囲を見渡した…

こっちじゃなくて、そっちか

パソコンでWebサイトが開けなくなった。Wi-Fiは普通に繋がっているのに。以前も同じようなことがあって、近くの量販店でパソコンが壊れていないか見てもらったことがある。その時はパソコンのバージョンをアップデートしていないことが原因だったらしく、ア…

「わたし」の破片を持つ「あなた」

大学時代、友達が面白いことを言っていたのを思い出した。 「たとえ別れてもさ、ずっと私のことを忘れないでほしい。それで、別れたあの人がふとした瞬間に自分のことを思い出してしまうようなら、私は勝ったと思うね。」 飲み会で恋愛の話になったとき、友…

【読書記録⑦】生の隣には

◆読んだ本 『小僧の神様 城の崎にて』/志賀直哉/新潮社/1968年 蜂の静かな死、死から全力で逃げ回る鼠、思いがけず殺してしまったイモリ。養生先での出来事が淡々と記された文から伝わってくるのは、筆者の心の静けさだ。穏やかとも冷淡とも違う、静謐さ…

それは単なる偶然

自分にとってよくないことが起こった時ほど、単なる偶然に意味を見いだす傾向が強いと感じた(自分自身が)。そして偶然に意味を見いだすことで自らをさらに悪い方へ誘導しているような気もする。 例えば、夕食の準備をしている最中に、包丁が指にあたって切…

ある小さな崩壊

最近まで、家の中でチューリップを飾っていた。 日中は花びらが大きく開いていた。横から見ると可愛らしい湯飲みのような形に見えるのだが、上から覗くとおしべとめしべがはっきりと確認できるものだから、なんだか見てはいけないものを見てしまったような気…

想定外の質問 in 銭湯

銭湯に行った時のこと。 休日ということもあり、いつもよりも人が多かった。サウナは苦手だが温泉なら2時間くらいは余裕だ(途中でシャンプーをする時間も含めて)。何よりも液体の中にいるのが心地いい。ぼんやりすることを歓迎してもらえる空間であること…

虚像を生きる

2023年4月某日 茨木のり子さんの詩が好きだ。歯切れのよい言葉の奥にある強い思いに共鳴する。特に好きなのが、〈さくら〉という詩だ。その中にこんな言葉がある。 さくらふぶきの下を ふららと歩けば 一瞬 名僧のごとくにわかるのです 死こそ常態 生はいと…

私と桜とマルとバツ

2022年4月某日 桜の季節になると思い出すことがある。 小学時代、オリジナルカレンダーを制作するという内容の授業があった。何の科目だったかは覚えていない。国語だった気もするし、そうでない気もする。とにかく、12枚の紙が配布された。その紙は上下に分…

遠き春、近き春

2021年4月某日 今年も桜の季節が終わりを迎えようとしている。開花、そして満開になり、散る時期が年々早まっていると感じるのは、気のせいではないだろう。そんなに急がなくともいいのに、と思わずにはいられない。さて、今年も桜を見ていて思うことがあっ…

春の跡

2020年4月某日 なぜ人は桜を美しいと思うのだろうか? 満開の桜を見ながらふと考えた。いや、そもそも美しい理由を考えること自体野暮だという人もいるはず。私もそう思う。綺麗なら綺麗でいいじゃないか。「桜=美しい」という方程式は普遍的なものなのだろ…

無知の恐怖

先日、祖母から相談されたことがある。それは、スマートフォンの料金プランについてだった。契約時の話を聞いて、契約書やプランの内容を読んで憤りを覚えた。なぜか。オブラートに包まずに言えば、“無知な消費者を食い物にしている”と感じたからだ。販売し…

上野公園迷子記録

先週、上野の東京都美術館で開催中の「エゴン・シーレ展」を見にいった。チケットはオンラインで既に購入していたため、予約の時間から1時間以内であればいつでも入場できる。時間ではなく、時間枠の予約ってすごくありがたいのだが、時間内であればいつでも…

【読書記録⑥】暗がりと美的感覚

◆読んだ本 『陰翳礼讃・文章読本』/谷崎潤一郎/新潮社/2016年 漆器に触れる機会がほとんどなかった私は、漆器に美を見いだす感覚が分からなかった。正直に言えば、お吸い物が入っている黒とか赤で塗られた器という認識しかなかった。しかし、この本を読ん…

自らを欺く勿れ

「好きな季節は何ですか?」 と問われたら、何と答えるだろうか。この場合、春夏秋冬のどれかを答えればいいのだが、私はすぐに答えることができなかった。なぜか。それは、自分の好きな季節が、春夏秋冬のどれでもあり、どれでもないからだ。言っている意味…

渇き。

幼い頃は、物に振り回されていた。 例えばチョコレート菓子とセットになっているおもちゃのネックレス。よく覚えていないがネックレスは10種類くらいあったと思う。それを集めるのにはまってしまい、スーパーに行くと必ずお菓子コーナーに行き、母の買い物カ…

ある街の冬三景【三、束の間の眩しさ】

冬の空はほとんど灰色だ。雪が降っていれば限りなく白に近い灰色。分厚く黒っぽい雲しかない日は、まるで嘔吐寸前のゲッソリした顔に見下ろされているような気がして気が滅入る。その分厚い雲から何かがポロリと落ちてきたかと思うと、次から次へと白い粒が…

タバスコの罪

チーズをトッピングした牛丼をはじめて食べた。 いつもはキムチをトッピングしていたが、新しい味を試してみようとチーズをトッピングした。食べてみてびっくり、とっても美味しい。牛丼の濃いめのタレの味がチーズでマイルドになって、うまみが増したような…

ある街の冬三景【二、期間限定重労働】

雪が積もると日常生活においてやるべきことが一つ増える。除雪だ。“大人になると雪が嫌いになる理由”の8割くらいを占めると思われる除雪だ。たとえば一晩で20センチ積もるとしよう。朝になれば、防寒着で身を包みカラフルな除雪スコップを持った人々が各々の…

ある街の冬三景【一、白い闇】

雪は空から降ってくる。何も間違っていない。「それ以外はあるのか」と笑われそうだが、そう言われたら大きな声で「あります」と答える。雪は横からも、下からも降る。いや、下から降るとは言わないか。正しくは、下から吹き上げてくる、だ。 ホワイトアウト…

【読書記録⑤】つながりとぜつえん

◆読んだ本 『絶縁』/著者:アルフィアン・サアット、チョン・セラン、郝景芳、韓麗珠、ラシャムジャ、連明偉、グエン・ゴック・トゥ、村田沙耶香、ウィワット・ルートウィワットウォンサー 訳者:及川茜、藤井光、大久保洋子、星泉、野平宗弘、吉川凪、福富…

【読書記録④】働き方と暮らし方と家の形

◆読んだ本 『脱住宅 「小さな経済圏」を設計する』/山本理顕+仲俊治/平凡社/2018年 そういえば、どこの家も同じような作りをしていたっけ。幼い頃、友達の家へ遊びに行った時の記憶がふと蘇ってきた。大体1階にはリビングがあって、2階には寝室や子供部…

こんな所に道があったとは

しまった、キャッシュカードの暗証番号を忘れた。 口座を開設後、初めて現金を引き出すというおめでたい日に、ATMの前でフリーズした。口座の暗証番号なんて、頭の中のどの辺を検索すれば見つかるのだろうか。よく使うメールアドレスやID、パスワードは記憶…

年末年始的時間感覚

年末年始の時間感覚はつくづくおもしろいと思う。 12月に入ってから何となく忙しい気がしてきて、クリスマスの日が終わった瞬間からなぜか1月1日に向かって走っているような気になる。別に忙しくする必要はないのに。スーパーには正月に食べる食材が並び始め…

魂が震えた3分30秒

年末が近くなるにつれて増えるのが大型の音楽番組。その年に流行った曲に混ざり、往年のヒット曲なども過去の映像とともに流れてくる。いわゆる“名曲”といわれるものは何十年たっても“名曲”であり、音楽番組で度々流される。私が名曲と聞くといつも思い出す…