とりあえずそこ置いといて

映画化も、ドラマ化もしない何でもない日常で感じたことや考えたことの寄せ集め

こんな所に道があったとは

しまった、キャッシュカードの暗証番号を忘れた。

 

 口座を開設後、初めて現金を引き出すというおめでたい日に、ATMの前でフリーズした。口座の暗証番号なんて、頭の中のどの辺を検索すれば見つかるのだろうか。よく使うメールアドレスやID、パスワードは記憶しているので、消毒液が置いてあると何も考えずにシューっと手を除菌するのと同じくらい無意識に入力できる。だが、初めて入力する番号で、なおかつ番号を控えたメモすら残っていないとすると、頼ることができるのは己の記憶だけということになる。いや、他に方法はないのか。とりあえず銀行の窓口に助けを求めた。「暗証番号を忘れた」と話すと、「もし、本当に忘れたのであれば、手数料はかかるがカードを再発行できる」と言われた。仕方あるまい。己の失態の責任は己で取るのだと腹をくくり、勇んで再発行をお願いした。すると、予想外の言葉が返ってきた。

「実は、あと3回思い当たる番号を入力できるチャンスがあるんですけど、やります?」

ほう、あと2回は間違えられるということか。聞くところによれば、暗証番号を入力できるチャンスは全部で6回あり、それでダメならセキュリティー上そのカードが使えなくなるのだという。再発行する覚悟は決まっているがチャンスがあるのならやってみようということで、賞金がかかったクイズ番組のラストチャレンジのごとくこう答えた。

「もちろん、やります!」

ということで、行員さんも同行し、再びATMの前に立った。脳内のあらゆる扉をノックして、暗証番号らしき数字がでてくると、すかさず入力した。1回目、失敗。落ち着いて、冷静になって、もう一度考えよう。あとは何が残っているだろうか。誕生日系は一通り入力したがどれも違った。じゃあ他に数字といえば、これはどうだろうと入力した。2回目、失敗。ついに、あと一回となった。もうここまで来たら、“考えるな、感じろ”の精神だ。いったん脳内捜索をやめ、深呼吸した。暗証番号にしそうな番号ってなんだろう? あの数字はどうかな、とふと浮かんできた数字があった。いや、そんなわけないよなと思いつつ、一応入力することにした。これでいいよな。不思議と最後はスッキリとした気持ちでOKボタンを押した。

ウィーン、ガシャ、ピーピーピー

これまでとは違う音がして、現金が出現した。なんと、最後に入力した番号が、正解だったのだ。後ろを振り返り、行員さんに報告した。すると、「よかったですぅ! 思い出せて!」と言ってくれた。ありがたい。思い出せたというか、そもそも覚えていなかったので数字を勘で入力しただけなのだが。

 

 覚悟を決めると、雑念が消えて感覚が研ぎ澄まされる。そして、曇りのない目で辺りを見渡すと、意外と近くに、進むべき道があることに気がつくのだ。まさか銀行でこんなことを学ぶなんて。