とりあえずそこ置いといて

映画化も、ドラマ化もしない何でもない日常で感じたことや考えたことの寄せ集め

「私、ビール苦手なので!」って言えなくなった話

子供の頃、大人は皆ビールが好きだと思っていた。 というか、ビールを美味しく飲める人が大人だと思っていた。 ゴクゴクと喉を鳴らしてビールを胃に流し込む映像はビールCMの王道だった。そして、そんな王道CMでは、飲み口から唇を離した後の第一声は必ず「…

時よ止まるな

2024年4月某日 川沿いの桜並木道を走る。 毎年の密かな楽しみだ。先週までまだ蕾だった花はすっかり満開になった。西に傾き始めた陽光が水面に反射していつにも増して眩しかった。桜並木を通るといつも脳内で再生されるのは、クロード・ドビュッシーの「アラ…

春は短し目覚めよ私

春はどうも眠い。 体の周期的に眠気がガツンと来る時期にちょうど重なった今は更に眠い。 平日はというと、夕飯を食べてからまず寝る。数十分後に起きてお風呂に入り、その後に本を読もうとするもウトウト。結局何も手につかず寝てしまう。何の予定もない日…

春になると

春になると花を植えたくなる― ホームセンターのガーデニングコーナーは花を求める人で溢れていた。 なんだか心が温かくなった。 「あら綺麗ね!」 「この花可愛い!」 「どこに植えようかな」 まだ背丈の小さな花や蕾の状態の花を見つめる眼差しは、みな優し…

生活駄文・十

車窓に映る私は、キンパを頬張りモグモグと口を動かしていた。 新幹線に乗った時の話だ。 本を読むのに疲れ、寝ることにも飽きると、大抵は窓の外をボーッと眺めている。日が沈み、外が暗くなり始めると車窓は鏡になる。外を見ていると、ふとした瞬間に自分…

フィルムカメラと写真に関する備忘録【後編】

フィルムカメラで写真を撮ることの魅力は何か。 “光”と向き合えることかもしれない。 例えば、少し暗めの写真が好きなので、露出計で示されたF値よりも絞ってみたとする。シャッターを切る瞬間、ほんの少し太陽に雲がかかり、光が弱まったことに気がつかずそ…

フィルムカメラと写真に関する備忘録【前編】

中古のフィルムカメラを買った。 前に使っていたものが壊れてしまったため、いいものがないか探していたところ、直感的に「これだ!」というものに出会った。「Konica ⅡB」というカメラだ。調べてみると1955年販売開始のようだった。ということは今から約70…

生活駄文・九

コーヒーショップにて。 また注文してしまった。何をって、あまり好きではないメニューを。商品を受け取って、一口飲んでびっくりした。 「あれ? これ前にも頼んだことあるぞ。しかもあんまり好きな味じゃない…」 やっちまった。なぜだ。もう二度目は注文し…

幻の通学路

先日、ふと思い立って、散歩がてら小学校の時の通学路を歩いた。卒業以来だったからかなり久しぶりだ。 家から小学校までは、当時の歩くスピードで20分以上かかる距離だ。よく毎日歩いたもんだと今更ながら感心した。そのおかげで、と言っていいのかは分から…

悲劇の小指

また足の小指をぶつけた。何であんなに痛いのだろうか。 朝起きてトイレに行こうとベッドから降り、歩きだそうとした瞬間近くにあったイスに激突。「いっ!」とスタッカートがついた音を発した。本当に痛いときは「痛い!」なんて言えない。よって、“声”では…

冬の太陽

久しぶりに陽光を浴びた。 ここ何日間かずっと曇りか雨か雪だったから気分が沈んでいたが、やっと青空を見ることができた。気分がいい。こういう日は外に出たくなる。夏はあんなに日焼けを気にして日光を避けていたのに、待ってましたと言わんばかりに浴びに…

湯けむりと椿

露天の湯に浸かりながら、椿を見た。少しぼやけた赤だった。冬の朝の冷えた空気によく似合う、張りのある赤が見たかった。しかし目の前が霞んでいた。湯けむりだ。立ち昇る湯けむりが椿の姿を絶え間なく隠すのだった。けむりを払おうと腕を振ったが、一向に…

雪が降らなくなった冬を生きるあなたへ

拝啓 雪が降らなくなってどれくらいたったでしょうか。 雪の冷たさや白さは覚えていますか。 ちなみにこの手紙を書いている今は、10年に一度といわれる寒波が襲来していて、骨まで染みる寒さにかろうじて耐えてます。嘘です。温かい室内でコーヒーを飲みなが…

あと少しで今年も終わるけれど

カレンダーを見て驚愕する。 気がついたらもう30日になっていた。 毎年のことだが、12月はカレンダーを見るたびに「え? もう○日?」と言ってしまう。別に焦っているわけではない。だって、12月で世界が終わるわけではないのだから、そもそも“やり残したこと…

信じた道を進む強さ

◆観た舞台 舞台『ジャンヌ・ダルク』 演出/白井晃 脚本/中島かずき(劇団☆新感線) 出演/清原果耶、小関裕太ほか 【東京公演】2023年11月28日~12月17日 東京建物 Brillia HALL 【大阪公演】2023年12月23日~12月26日 オリックス劇場 演劇のおもしろさ、…

ピアノとダンスと想像と

◆観た舞台 『ある都市の死』 上演台本・演出/瀬戸山美咲 出演/持田将史(s**t kingz)、小栗基裕(s**t kingz)、小曽根真 【東京公演】2023年12月6日~10日 草月ホール 【大阪公演】2023年12月12日、13日 サンケイホールブリーゼ 戦争を生き抜いたポーラ…

ひとりじゃないと思える存在

◆観た映画 『星くずの片隅で』 監督/ラム・サム 出演/ルイス・チョン、アンジェラ・ユンほか 2022年/香港/115分 フワッと心に温かい風が吹いてくる気がした。 コロナ渦の香港の街で、懸命に生きる人々の姿を描いた作品、といえば一言で終わるが、一言で…

心の奥底に沈んでいるものは?

◆観た映画 『アンダーカレント』 監督/今泉力哉 出演/真木よう子、井浦新ほか 2023年/143分 ものすごく感情が揺さぶられる映画だった。 感情が露わになる場面はほとんどなく、セリフも多いわけではないが、登場人物たちの気持ちがじわじわと伝わってきた…

「寂しい」と似て非なる感情

不意に、寂しいような気がする時がある。 それは、一人でいる時だけではない。周りにたくさん人がいる時もだ。でも、周りにたくさん人がいるのに寂しいってどういうことだ? とりあえず、辞書で意味を調べてみた。 さびしい【寂しい】 ①人やものが少なくて、…

陶芸体験記

はじめて陶芸体験をした。 陶芸で使う土の塊を実際に持ってみると、思っていたよりもずっしり重かった。土の感触はとても滑らかで冷たく、触れていて心地よかった。形の異なる湯飲みを二つ作ろうと思い、球状にまとまっていた粘土を糸のような用具で半分にし…

本を読まなくなると…

以前よりも本を読まなくなった。 本を読むとあれこれ考えを巡らせてしまう。あの表現がめちゃくちゃ好きだとか、あれってどういう意味なんだろう、とか。その時間が好きだった。しかし、それによって影響を受けるものがある。仕事だ。何かにどっぷり浸かると…

雲を見下ろして

機内にて。 離陸から数十秒後には雲を見下ろしていた。 普段地上で生活をしていて、雲を見上げるとは言うが、雲を見下ろすという言葉を口にすることはまずない。久しぶりに雲を見下ろすと言った。天気がよかったので、白塊の群れの間から地上の景色が見える…

生活駄文・八

9月某日 コンビニで久しぶりにカルピスウォーターを買おうとした。だが、冷蔵室の扉を開けてペットボトルを手に取ろうとした瞬間、「ん?」と躊躇いが生じた。なぜ躊躇うのだろう。久しぶりのカルピスウォーター。それはとても暑い日だった。喉が渇いていた…

あなたをなんと呼んだらいいか?

ニュースを見ていて気になったことがあった。 取材をしている記者が、インタビュー相手のことを「お父さん」と呼んでいたことだ。なぜ他人なのに「お父さん」と呼ぶのだろうか。二人称と言えば「あなた」だが、日常会話であまり使わない気がする。街頭インタ…

美術展巡り9月

◆9/9(土)ベルナール・ビュフェ美術館(静岡県) 【“ビュフェ・スタイル”とは何か?】 ベルナール・ビュフェの絵に出会ったのは去年だった。山形美術館で開催されていた「服部コレクション 山形が誇るフランスと日本の美術」で、ある一枚の絵に強烈に惹かれ…

生活駄文・七

8月某日 シシトウガラシは、トウガラシという名前がついているが辛みがほとんどない品種だ。味はピーマンに似ている。ほんのり苦みがあり美味しいのだが、稀に激辛のものが混ざっていることがある。そう、その辛いやつを一日に2本も食べてしまったのだ。見…

美術展巡り8月

◆8/19(土)国立新美術館(東京都) 【蔡國強 宇宙遊―〈原初火球〉から始まる】 火薬を爆発させて描いていることに驚くとともに、その絵からものすごいエネルギーが伝わってきた。静かにそこにある絵は、激しい爆発(=「動」)によって生まれた。この「静」…

静寂と歓声

ハンガリー・ブダペストで世界陸上が開催されている。普段スポーツは全く見ないが、陸上だけはつい見入ってしまう。私自身もともと走ることが好きで、学生時代は陸上競技をやっていた。あの選手のここがすごい、など詳しいわけではないが、世界トップクラス…

何を見るか、何が見えるか

写真が好きだ。何だかざっくりした表現なのでもっと具体的に言うと、シャッターを切りたくなるような構図や色に出会った瞬間のワクワク感が好きだ。とりわけフィルムカメラは、現像するまでどんな写真が撮れているかわからないので、現像してもらった写真を…

跡形もなく消えたとしても

私が借りている駐車場の隣の家には、立派な桜の木があった。昨日までは確かにそこにあった。でも今は跡形もなく消えている。本当に桜の木があったのかと疑いたくなるくらいきれいに消えていたから驚いた。なんだかとても寂しかった。その家はもともと空き家…