とりあえずそこ置いといて

映画化も、ドラマ化もしない何でもない日常で感じたことや考えたことの寄せ集め

雪が降らなくなった冬を生きるあなたへ

拝啓

雪が降らなくなってどれくらいたったでしょうか。

雪の冷たさや白さは覚えていますか。

ちなみにこの手紙を書いている今は、10年に一度といわれる寒波が襲来していて、骨まで染みる寒さにかろうじて耐えてます。嘘です。温かい室内でコーヒーを飲みながら書いてます。

 

ありきたりな表現ですが、ちぎった綿のような雪が静かに順調に積み重なっています。木々がその綿をかぶったおかげで、殺風景だった遠くの山々はフワフワの白い絨毯のようになりだいぶ華やかに見えます。

すみません、今更ですが、手紙というものをあまり書いたことがないのでどんな感じに書くのが正解なのかいまいちよくわかりません。とりあえず思ったとおりに書いてみます。

 

いろいろ聞きたいことがありますが、まずはこれから。辞書に「雪」という単語はまだ載っていますか。さすがに消えてはいないと思いますが。どういう説明が書いてあるのか非常に気になります。

そうそう、雪といえば、志賀直哉の『雪の日』という短編に出てくる表現が絶品です。

 

「沼べりの枯葭が穂に雪を頂いて、その薄墨の背景からクッキリと浮き出している。」

 

「そして、上等の焼塩のように少しも水気がなくサラサラしている。」

 

情景がすぅーっと脳内に広がって、目の前で実際に見ているかのような気がしてきます。雪の冷たさ、質感がこんなに近くに感じる表現は他にありません。

 

まあでも、雪は大人にとっては厄介者かもしれません。雪かき、雪道の運転など何かと時間と体力が奪われます。でも、しんしんと雪が降る夜は空がうっすらと明るいこと。降り積もった雪に陽光が差すとキラキラと輝くこと。氷点下の空気はパリッと張りつめていて、おまけに不純物が皆無で澄んでいること。美しいと感じる瞬間がたくさんあります。決して悪いことばかりではないと思うのです。

 

雪が降らない冬はどんなものですか。

もちろん、もともと雪が降らない地域もありますが、私は雪国に住んでいますので、雪が降らない冬を想像しようにもうまくイメージが湧きません。ただ、今年の夏の異常な暑さを経験し、いずれは四季がなくなり、猛暑の時期とそうでない時期が交互にやってくるだけという時代が来るのではないかと思い始めています。突然ではなく、少しずつ確実に変わっていくのだと思います。気付いた頃には、「そういえば今年も雪降りませんでしたね」なんて世間話のネタになり、もっと時間がたてば、雪という単語すら登場しなくなるでしょう。あくまで私の想像ですが。当たっていますか? あなたが生きている時代のことを教えてほしいです。

                                  敬具