とりあえずそこ置いといて

映画化も、ドラマ化もしない何でもない日常で感じたことや考えたことの寄せ集め

ピアノとダンスと想像と

◆観た舞台

『ある都市の死』

上演台本・演出/瀬戸山美咲

出演/持田将史(s**t kingz)、小栗基裕(s**t kingz)、小曽根真

【東京公演】2023年12月6日~10日 草月ホール

【大阪公演】2023年12月12日、13日 サンケイホールブリーゼ

 

戦争を生き抜いたポーランドのピアニストであるシュピルマンとその息子クリストファー、そして、シュピルマンを救ったドイツ人将校ホーゼンフェルトの物語。ピアノ、語り、ダンスで表現する舞台だった。

 

ピアノの音が二人の役者の身体と共鳴して、それに伴い観客の心も共鳴しているような気がした。中でも、街でたった一人になってしまったシュピルマンのダンスは、圧巻だった。生きている感覚をたぐり寄せるように手を伸ばし、地を這い、転がり、空を見上げる――愛する家族を奪われ、街が破壊され瓦礫と化していくことがどれほどの悲しみなのか。ダンスで表現することで、言葉にならないその苦しみが波のように押し寄せてきた。

ピアノとのセッションによってその日、その場限りの表現が生まれる。こんな舞台は初めて観た。ピアノの音に合わせて踊る、踊りに合わせてピアノを弾く。どちらか一方だけでは成立しない舞台なのだと思った。感情をそれぞれの表現方法で表現し、相手に委ねる部分と自分が引っ張る部分を、言葉を使わずに確認し合う。そんな一流のセッションに、ぐいぐい引き込まれた。

 

舞台上のセットは全く変わらないが、見えるはずのない景色が見える気がして、聞こえるはずのない音まで聞こえるような気もした。幻覚とか幻聴とか、そういう話ではない。鍵盤に触れていない時間、セットのテーブルやイスの動かし方、そういう細部にまで気を配っているからこそ物語の世界にグッと入り込むことができたのだと思う。