とりあえずそこ置いといて

映画化も、ドラマ化もしない何でもない日常で感じたことや考えたことの寄せ集め

魂が震えた3分30秒

年末が近くなるにつれて増えるのが大型の音楽番組。その年に流行った曲に混ざり、往年のヒット曲なども過去の映像とともに流れてくる。いわゆる“名曲”といわれるものは何十年たっても“名曲”であり、音楽番組で度々流される。私が名曲と聞くといつも思い出すのは、本田美奈子さんの『Amazing Grace  (Voice Recorder Version)』である。この歌をはじめて聴いたのは、高校時代の英語の授業だった。

 

高校何年生の時かは思い出せないが、英語のテキストでジョン・ニュートンの生涯と『Amazing Grace』の誕生秘話のような章があった。英語の授業自体はそこまで好きではなかったが、テキストに書いてある話を読むのは嫌いではなかった。英語のテキストなのでもちろん文章は英語。これ全部日本語訳も書いてくれていたらもっと読みやすいのに…と、わけのわからないことを考えていたような気がする。話を戻そう。その章の後半は『Amazing Grace』と日本の関係というトピック(だったはず)で、歌手の本田美奈子さんについて書いてあった。そこではじめて、もうこの世にいない人なのだと知った。白血病を患いながらも、歌うことに対して情熱を持ち続けた人であることも知った。この章の勉強も終盤に差し掛かったある日の授業、先生が音楽プレーヤーで本田さんの歌声を聞かせてくれた。

 

鳥肌がたった。その時聴いたのはアカペラで、しかも音響設備が整っているスタジオで録音された歌ではなく、ボイスレコーダーに録音されたものだった。雪解け水のように清らかで透明で、力強さも感じられる歌声に魂が震えた。まさか自分が「魂が震える」などという表現を使う日が来るとは思わなかったが、その歌を聴いたときの感想として最もふさわしい言葉だと思ったので、あえて使うことにした。言葉で説明するのは難しいが、メロディーに感動したわけでも、歌詞に感動したわけでもない。自身も闘病中でありながら、恩師を励ますために歌ったものであることに心が揺さぶられたのだ。本田さんの、「大切なあなたに届けたい」という気持ちが強く伝わってきた。そして、心を込めて歌っている姿が見えたような気がした。生きる喜び、大切な人と過ごす時間、いつも支えてくれている人への感謝。彼女は、言葉よりも歌うことで気持ちを伝えようとした。そしてその歌は、言葉よりも多くのものを与えたのだと思う。高校の授業の内容などほとんど忘れているが、その授業は、というよりも本田さんの歌声を聴いたことははっきり覚えている。

 

今でもふと思い出したときに聴いている。聴く度に胸が熱くなる。それは、こぼれそうなくらいの歌への情熱に奮い立たされ、周りへの感謝の気持ちを忘れていることに気づかされるから。確かに私は彼女のほんの一面しか知らない。テレビ番組で歌っているのを見たことすらない。でもこの歌は私にとっての名曲いや、大切な歌声なのだ。