とりあえずそこ置いといて

映画化も、ドラマ化もしない何でもない日常で感じたことや考えたことの寄せ集め

ゆく人、くる人

その日は出張で東京駅に降り立った。人、人、人。とにかく人が多い。自分の乗るべき電車に向かう人々が縦、横、斜めと様々な方向に行き交う。その流れの中で立ち止まることはできない。水の流れをせき止めてしまうことになるから。いつ来てもせわしない場所だ。早めに到着したので、駅の構内で30分くらい待つことにした。激流から離れ待合スペースの椅子に座って一息つくと、同じように座っている人がどこから来たのか、あるいはどこに行くのか気になり始めた。斜め後ろの女性の側には大きなキャリーケースがある。日曜日だったので帰省ではなさそう。だとすると、好きなアーティストのライブを終えて帰るところか。ライブは楽しかっただろうか。左隣の年配の男性は熱心に資料を読んでいる。もしかして同じ研修会に参加するのかも。右隣の夫婦からは、「パンを買ってきた」という会話が聞こえた。これから新幹線に乗って地方に旅行に行くのだろうか。どこに行くのだろう。

 

そんなことを考えている間に皆次々に席を立ち、激流の中に消えていった。椅子が空くとすぐに、空くのを待っていた人が座った。今隣に座っている人とまたどこかで会う確率はどのくらいなんだろう。ふと時計を見ると出発の時間になっていた。やばい、そろそろ行かないと。私も席を立ち、改札を目指して歩き始めた。振り返ってはいないが、私が座っていた椅子にも、もうすでに誰か座っている気がした。