とりあえずそこ置いといて

映画化も、ドラマ化もしない何でもない日常で感じたことや考えたことの寄せ集め

ある街の冬三景【一、白い闇】

雪は空から降ってくる。何も間違っていない。「それ以外はあるのか」と笑われそうだが、そう言われたら大きな声で「あります」と答える。雪は横からも、下からも降る。いや、下から降るとは言わないか。正しくは、下から吹き上げてくる、だ。

 

ホワイトアウトという現象を体験したことはあるだろうか。それは視界が全て白に支配され、方向感覚が奪われるという恐ろしい体験だ。私は車に乗っている時にそれを経験した。気温は氷点下、風は強く、サラサラとした雪が舞う朝だった。吹雪いていたのでいつもよりも早めに家を出た。案の定、車の進むスピードは皆遅く、軽い渋滞のようにトロトロ進んでいた。すると次第に雪の量が増えてきて、前の車のブレーキランプが霞んできた。あれ、これはおかしい。いつもの吹雪とは違うことを感じ始めた瞬間、周りの景色が消えた。誇張しているのではない。本当に消えたのだ。まるで真っ白な空間に閉じ込められたようだった。方向感覚が狂ってしまい、前に進んでいるのか(対向車線にはみ出していないのか)分からなくなったのだ。かといって、その状況で完全に停車するのも危険な気がして、ブレーキで速度調整しながら進んだ。そうしているうちに前の赤いブレーキランプが見えるようになった。視界が消えたのはおそらく1分に満たないくらいだったと思う。周りの景色が見えるようにはなったが、依然として霞むくらい吹雪いてはいた。対向車線の車の上向きのヘッドライトが、白い闇の中を彷徨う亡霊のように見えた。

 

吹雪の中を歩くなんてことがあれば、雪だるまになることは目に見えている。強風に乗ってきたサラサラの雪は、容赦なく体当たりしてくる。そして地面に落ちてもなお這うように動き回り、風で吹き上げられて足下を白く染める。雪はしんしんと降ってどっさり積もるだけではない。風と共謀して白い闇を生み出したり、人をいとも簡単に雪だるまにしたりもするのだ。