◆読んだ本
漆器に触れる機会がほとんどなかった私は、漆器に美を見いだす感覚が分からなかった。正直に言えば、お吸い物が入っている黒とか赤で塗られた器という認識しかなかった。しかし、この本を読んで、なぜこれまで美しさを見いだせなかったのか分かった気がした(美しさを感じ取ろうとしなかった自分を反省しつつではあるが…)。原因は、「光」にあったのだ。
日本の工芸品、美術、建築等は、暗がりだからこそその美しさが映えるものが多い。それは、西洋の文化が普及する以前の日本は、陰翳のうちに美を見いだしており、その美的感覚に合うような物づくりがなされていたからだということが分かった。だから、夜でも昼間と同じ明るさを維持できるような照明器具とは相性が悪いのだろう。確かに、私が漆器のお椀に触れたのは、いつも電気が煌々としている場所だった。これなら美を感じなくても仕方あるまい、と思うこととする。光があることで際立つ美しさもあれば、光が非常に少ないからこそ浮き上がる美というものもあるのだ。
漆器の吸い物椀の良さについて書いている文章が絶品で、目の前にお椀があるような錯覚に陥るほどだった。