とりあえずそこ置いといて

映画化も、ドラマ化もしない何でもない日常で感じたことや考えたことの寄せ集め

煙の誘惑

スーパーの駐車場にて。

車を降りた瞬間、なんとも香ばしい匂いが鼻を襲撃し、思わず深呼吸。「なんじゃ?この香りは?どこから香ってくるのじゃ?」なんて昨日見た時代劇に影響されまくったつぶやき(もちろん声には出さずに心の中で)と共に周囲を見渡した。あった。スーパーの入り口付近に移動販売の焼き鳥屋さんがあった。あそこからもくもくと煙が出ている。入り口付近に陣を構えているため必ずその店の横を通過する必要がある。そんな、ねえ、入り口の近くにいられたら困っちゃうよ。あの煙をダイレクトに嗅いだら…相手の思うつぼだ。しかもスーパーに寄ったのは夕食の買い物をするためではなく飲み物を買うためだった。そんなこんなで、ここで焼き鳥を買ってたまるかという奇妙な意地を張り、真っ向勝負に出ることとなった。

 

スーパーの入り口を真っ直ぐ見据え、早足で進んでいった。近づくにつれて香ばしい香りが濃くなってきた。炭火で焼くとおいしいんだよな…一瞬、相手の策に溺れるところだったがなんとか乗り越えた。そしてついに、焼き鳥屋の前を通過。ふと、店の方を見ると、開いた窓から焼き鳥を一本一本丁寧に焼いているのが見えた。早足で歩いていたのにどういうわけか通過するその瞬間だけスローモーションになった気がした。煙、煙、焼き鳥の匂い…足を止めてはいけない、そう強く心に決め、なんとかスーパーの店内に入ることに成功。

 

にしても強烈だったな。食欲が一気に高まったもの。食材を焼く匂いを嗅ぐと、本能が刺激されるような気がする。どんなに緊張状態にあってもその匂いを嗅げば、お腹が鳴ってしまったり、唾液の分泌が増えたり…勝手に体が反応してしまう。これが、つい買ってしまう、の“つい”の原因なのだ。焼いた肉の匂いに体が反応することは、なんというか、人間が火を用いて調理をするようになった時代からDNAに刻まれてきたのではないかと思う。

 

焼き鳥食べたい欲が非常に高まった状態で帰路についたが、家に帰ると「あれ?なんであんなに焼き鳥食べたかったんだろう?」とすっかり焼き鳥熱が冷めてしまった。あの匂いは、即効性はあるが持続性はないのかもしれない。