川沿いの土手が一面白い花で覆われていた。
正確に言えば、花びらの先端が薄い紫色をしている白い花だ。
夕方の風を浴びてユラユラと気持ちよさそうに揺れていた。
春の暮れ。
気温、湿度、日照時間、全てがちょうどよいと感じる短い期間。
心地よすぎて夢を見ているのかと思った。
揺れる白い花。
これら全て人の手で植えたのだろうか。
それとも、ほんの数メートル分種をまいただけで、あとは自然に増えていったのだろうか。
だとしたら繁殖力が相当強い。
それに、小さくて可愛らしい花であるが、目線を落とすと、他の草をかき分けて茎を伸ばしており、太陽光争奪戦を勝ち抜き、たくましく育っていることがよく分かった。
白い花の群生地を眺めながら歩いていると、一部、踏み倒されている場所があった。
おそらく、散歩中の犬がちょっと道草したのだろう。それか、揺れる花々の中で写真を撮るために人間が入ったのかもしれない。花畑に入りたくなる気持ちは分からなくはない。でも、少し怖いとも思う。なんだか異世界に入ってしまう気がするから。
風が吹く度に揺れ動くその姿は、この世ではない場所に誘い込むように手招きをしているように見えなくもなかった。