2月某日
晴れ。雪解け間もなく、まだしっとりとした土に陽光がたっぷり降り注いだ。朝晩は冷え込むが日中はだいぶ暖かくなってきた。薔薇の剪定を行う時期がやってきた。薔薇というのは、祖母の家の庭に植えられているたった一株の薔薇である。
庭に到着して驚いたのは、すでに薔薇の周辺に雑草が生え始めていたことだ。ついさっき雪が解けたばかりだというのに、焦げ茶色の土に点々と緑が芽吹いていた。春の訪れを感じる喜ばしいこととして受け止めるべきなのかもしれないが、私の頭の中では薔薇が主役の物語が始まろうとしているので、申し訳ないが雑草の皆さまには退場してもらうことにした。もとい、申し訳ないなんて思っていなかった。今年は土壌改良も一緒にやろうと決めていた。といっても大したことをするわけではなく、元々ある土に薔薇用の土を混ぜて養分を補充するだけだが。
まずは薔薇の周辺の土をスコップで掘り始めた。雪解け水が染み込んだ土は重い。3週間程前の大雪の際に雪かきをして腰を痛めたこともあり、細心の注意を払って土を掘った。土の匂いが懐かしく感じた。真っ白な世界は無臭だ。そういえば、冬の匂いというのは一体何の匂いなのだろう…。ある程度の深さまで掘ったら、薔薇用の土を撒き、掘った土を戻しながら混ぜ合わせた。園芸のプロではないのできちんとしたやり方は分からない。ネットで検索して、できる範囲のものをやろうと思った。雪の重さでギュッと固まった土に空気を含ませてフカフカにし、根っこがのびのび活動開始できるように環境を整えてあげよう。そんな気持ちで作業した。
土ができたら次は剪定だ。剪定については本を買って少しばかり勉強していた。なんの知識もなくバサバサ切って花付きが悪くなってしまったら取り返しがつかない。ということで学んだことを思い出しながらいざ実践。何十年ものの古株のため、触るとパリパリ崩れる枝もある。皺が多く色もグレーに近い。見た目からして完全に枯れている枝だ。それが新しい枝と枝の間にいて、葉が茂ると風通しが悪くなっているのを去年から見つけていたが、切るにはノコギリが必要なくらい太かったこともあり、作業を先送りにしていた。その枝を今回の剪定で切ることにした。ノコギリを入れると意外にも水分を含んでいるような音がした。あれ、まだ生きてるか…と思ったが、去年の盛りの時期を思い出して、葉っぱ一枚も出していなかったよな、ということはそういうことだよな、と迷いを払拭した。切り終えたその枝はよく知っている薔薇の枝よりも太く固く、鋭利な棘がたくさん付いていた。どのくらい鋭利かというと、ケガ防止のために付けていたゴム手袋(園芸用)を貫通するくらい。おそらく初期の頃からの枝だろう。切ってしまうのが惜しい気もしたが、新しい枝のため、新しい花のため、場所を明け渡してもらおう。
一通り作業を終え、薔薇を眺めた。何だかすっきりした。薔薇が?いや、薔薇はもちろんだが、私の気持ちも。土を掘って忌み枝を切ってというのは、人間でいうところの、頭皮マッサージをして傷んだ髪を切って整える、みたいなことだろうか。そんなイメージをもっていたから、自分もすっきりしたような気がしたのかもしれない。薔薇はまだ休眠期である。今はまだ芽吹きを待つだけ、ということで今回の作業記録を閉じる。