日々の断片採集記

映画化もドラマ化もしない日常で感じたことや考えたことの寄せ集め

ホテルの地下にて【前編】

大学時代、12月の一定期間限定の短期バイトをしたことがある。

その内容とは、ホテルでクリスマスケーキを作るというものだ。そうはいっても、実際に生地を作ったりクリームを泡立てたりするのはパティシエの方がやるため、バイトがやることといえば苺のヘタを取ったり、決められた通りデコレーションしたり、洗い物をしたりするだけだ。

 

そもそも、ホテルのケーキに思い入れがあるわけではない。11月をすぎるとテレビCMや広告で注文受付中という文字を見るくらいで、実は食べたことはなかった。ついでに言うと、お菓子作りに特段興味があった訳でもないが、バイトを募集していることを知ると、絶対にやってみたいと思いすぐに応募したのを覚えている。なぜだかよく分からないが、「クリスマスケーキ作るのおもしろそう」というシンプルかつ強烈な好奇心がそうさせたのだと思う。

 

バイト初日。案内された場所はホテルの地下だった。ホテルの調理室って地下にあるのが普通なのかと疑問符を浮かべながら薄暗く狭い迷路のような通路を歩いた。支給されたエプロンと帽子を装着し、いざ中へ。足を踏み入れた途端にチョコレートやクリームの甘い香りがしてきて思わず深呼吸。ただ、仕事は全く甘くない。ひたすら洗い物をしたり、ケーキのデコレーションをしたりする作業が続く。一から十まで教えてもらえる訳はなく、先輩バイトさんについて見よう見まねで覚える。はじめにやったのはケーキの側面に透明なシートを巻く作業。これがまた難しい。一度クリームに付けてしまうとやり直しができないため慎重にやっていたが、どうやらコツがあるようで、掴むとスピードが一気に上がった。ケーキのデコレーションは流れ作業で行なわれた。フルーツを置く人、ホイップクリームを絞る人、粉糖をかける人、最後に箱に詰める人。チラシの写真どおりにデコレーションするかと思いきや、全く同じにする必要はないようだった。苺の大きさが全て同じわけはないから、その大きさに合わせてチョコの位置を変えたりと、わりと臨機応変に飾り付けした気がする。

 

とにかく時間との勝負。たしか私がシフトにはじめて入ったのは一番の繁忙期の一週間前だったと思うが、すでにかなり忙しかった。パティシエの皆さんは通常の仕事(ビュッフェ用のデザート作りなど)に加えてクリスマスケーキの仕事もこなしているため、かなり夜遅くまで仕事をしているようだった。少しでも助けになればと思ったが、できることが限られているためもどかしかった。

そして一番の繁忙期がやってきた。(後編につづく)