◆観た映画
『国宝』
監督/李相日
2025年/日本/175分
とにかく圧巻だった。芝居、踊り、音楽…全てに気迫と美しさを感じた。血筋と才能、手に入れようとしても絶対に叶わないものをそれぞれ持ち合わせた喜久雄、俊介の二人の歌舞伎役者が見た夢とは。芸を極めた先で待ち受ける景色とは。
名跡と芸を受け継ぎ次の世代へ繋ぐ世襲の世界―そういうイメージからもう一歩も二歩も踏み込んだ先にある物語を、3時間という時間でじっくり堪能できた。
映画を通して、一つのものごとを極めることの素晴らしさ、そして苦しみが感じられたが、それは物語の内容からだけではない。とてつもない熱意を持って映画の製作に携わった人たちの姿が想像できたことが大きく作用している気がした。役を演じる俳優はもちろん、裏方と言われるような、表には出てこないけれども映画を支えている人々の気概がスクリーンから滲み出ていた。
魅力的なお芝居をする俳優陣の中、ひときわインパクトがあったのが、田中泯さん演じる人間国宝・小野川万菊だった。踊りはもちろんだが、その立ち振る舞い、指先の動き、本質を見抜く目などその存在感が人間離れしていた。品があり、しなやかな身のこなしではあるが、確固たる芯を持ち、例えるならブラックホールのような存在だった。中途半端な気持ちで対峙すれば吸い込まれてしまいそうになる。美しかったが、画面に映るだけでこちらも緊張してしまうくらいに怖さも感じたのはそのためだろう。
原作を読んでいないため、実写映画としてどうなのかという視点から感想を述べることはできないが、歌舞伎のことを何も知らずに見てもグッと引き込まれるし、楽しめる映画だと思った。