無名日々記

映画化も、ドラマ化もしない何でもない日常で感じたことや考えたことの寄せ集め

150円

ブックオフに行った。

不要になった資格試験の問題集を売却するためだ。書き込み等は一切していないので状態は良好。これはゴミではない、問題集として別の誰かの役に立つ可能性がまだ十分にある、そう思い売ることにした。

 

新品の問題集は決してお手頃価格とは言えない。そうれもそうか。過去何年分かの試験問題または類似問題が収録されており、丁寧な解説まで付いているのだから。入試や資格試験、就職試験に合格するためには多少の出費は覚悟するにしても、できればお金はかけたくないというのが正直なところ。塾や資格取得のための学校は、そんな思いを抱えた受験生に何と言って商品を売っているのか。私が聞いたことがあるのはこんな感じの言葉だった―「出費が大きければ大きいほどそれに見合う結果を出すために必死になる。このカネを無駄にはできないという気持ちが働くから。だから、本気で合格したいという思いがあるのなら受講すべき」。一瞬、なるほど、と思った。でもお金をかければ必ず合格できるわけではない。結局は自分次第なのだ。だったら自分で教材を揃えて勉強した方がいいじゃん、と私は思ってしまった。だから参考書は全て中古のものを買った。少し脱線してしまった。何の話だっけ。あぁ問題集を売った話だった。私は唯一の新品である過去問題集を買い取りカウンターに置いた。たった一冊だけだったためすぐにその場で値段が言い渡された。

 

「150円です。お売りいただけますか?」

 

ひ、ひゃくごじゅうえん? 私はマスクの中で小さく復唱した。予想を遥かに下回る結果に何ともいえない気分だった。そうはいっても売らない選択肢は無かったので、150円を受け取って退店した。買った時はあんな値段だったのに売ったらこんな値段にしかならなかった。「一度誰かのものになっただけでそんなに価値が下がるものなのか。むしろ、一人合格させたのだから、価値が上がってもいいのではないか」などという不満がぷくぷく浮かんできた。だがすぐに己に謙虚さが足りないことを反省して、気泡緩衝材を一つずつ潰すようにそれらのワードを消していった。

 

参考書を売ってくれた人がいたおかげで、私はあまりお金をかけずに合格することができた。まずはその人に感謝。そして、名前も知らないその人の「自分はこれを使って勉強して合格できました。次に使うあなたも良い結果を出せますように」という暗黙のメッセージをきちんと受け取らないと(ご本人はそんなことは全く思っていないかもしれないが…)。最後に、私が売った問題集が別の誰かの手に渡り、その人の力になりますように―

 

ちなみに、受け取った150円は店を出てすぐ右にある自動販売機に投入され、清涼飲料水に姿を変えた。